一人称工芸
京都府事業で参加させていただいている『一人称工芸』を今年も実施させていただきました。
今回のテーマは『輪廻金彩』
人に使われ徐々に経年変化していったものに新たな命を与えることをコンセプトに金彩加工を施した作品を展示させていただきました。
アンティークラジオ 加工参考価格 50,000円(デザイン代、版型製作費別)
東寺のガラクタ市にて見つけたこちらのアンティークラジオ。傷もありかなり草臥れてはいましたが、ラジオとしての機能は正常に果たしておりました。
正面は加工を施すと過剰になると考え、天板部分と側面に金彩加工。
新たな定着剤を使い硬化力と定着力を上げ加飾を行いました。技術の根本は京友禅の技法ではありますが、ラジオのデザインとの相性を考えた結果、装飾的なデザインに仕上げました。
立体的な加工でデザインにボリュームも与えた後に別の色の金を使って縁取りを施しております。テストマーケティングにご協力していただいた感想では「立体的な加工には触れたくなる魅力があり、自然とラジオに手が伸びていました」とのこと。ラジオの側面に手が伸びるというのも不思議な感覚ですが、そういった魅力で人を惹きつけることのできる加飾になっていたのかと思います。
レザー財布 加工参考価格10,000円(デザイン、版型製作費別)
自身で8年ほど使用していた藍染めのレザー財布。浅葱色のような明るい藍色の財布も経年変化により濃い藍に変色し渋い財布となっておりました。
こちらにも今回初めて採用した定着剤を使用して加工を施しております。筒描きの技法を用いて線描を施し、モダンなデザインを金銀で表現。現代ではほとんど加工する技術者もいない「水衣」と呼ばれる技法を使いました。
徐々に失われつつある技法というのは京友禅の世界でも数多くあり、こちらの技法もその一つであります。本来は箔を定着させるための箔下糊を筒で描き、そこに本金箔を定着させこのような模様を表現する技法です。
しかし、レザー製品は静電気のせいで余分なところにどうしても箔がついてしまい、箔を使って綺麗に模様を描くことは非常に難しい作業になります。文字などが綺麗に箔押しされている商品の多くはフィルム箔と呼ばれるものを使用しておりますが、私たち職人が機械的な加工に近寄っては意味がないと思い手作業を重視した表現を目指しています。
実際にレザーの全面や簡単なデザインのものであれば、わたしたちが普段使用している箔を定着させることも可能です。しかし、箔とレザー製品では使用されるシーンでの相性が非常に悪く箔が剥離したり、すぐに傷がついてしますという欠点があります。
そのため今回加工に使用した技法は筒描きに絞って加工を施しております。この加工方法であれば定着剤の強度が高ければ高いほど剥離などの劣化を防ぎ、細かな柄も描くことができるからです。定着剤も着物で使用するようなものではなく、特殊なものを使い堅牢度を上げております。
使い古したもの、思い出や愛着の湧いた手放しにくい商品に新たな命を吹き込む
『輪廻金彩』を楽しんでいただけたら幸いです。