名古屋帯『梦』
水衣加工を使い表現された名古屋帯。黒の染め帯に描かれた、煙のようであり、水の流れにも見える銀線。今作はいくつかの新たな挑戦を試みた作品でもある。
・これまで絹生地では使用したことがない糊を使用して加工
・全てを下絵なしのフリーハンドで制作
今回使用した糊は木材加工やネクタイなどの加工にも使用してきた特殊なものです。擦れに強く、少し立体的に線を描くことができることは確認しながらも「絹生地に定着するのか?堅牢度は?光沢は?」など不安要素が多く絹生地への加工は控えてきましたが、擦れに強い立体的な加工というのは非常に多くの可能性が秘められているため、自身の作品で加工に使い定着力、堅牢度などを確認することに。
絹に加工してみた時の糊の感覚
・線の引き心地は少し違和感があるものの大きく違いは感じられず
・少し生地から浮いた感じがあり食い込みが悪く思い、糊置きの地入れの要領で食い込みを良くした
・初期の想定通り擦れには強く光沢も悪くない
確信するにはもう少し時間を置いて堅牢度に関してもチェックしなければいけませんが、なかなかに良いのではないかと感じております。
そして今回の作品一番の挑戦は「完全フリーハンド」での加工といったこれまで試したことのない手法を用いたこと。
本番に入る前に黒画用紙を用いて試作。加工に入ってしまえば自分を信じてやり切るしかないためまず躊躇いを消すためにイメージを固めていく。
そしていざ本番。
黒染めされた帯生地にベビーパウダーと筆を使って全体の流れを固めていく。
そして大まかな流れを描いた後に線で埋めていく。
完成。
昨年度の東京ギフトショーで類似作品の制作を重ねてきたことでようやく体に線が馴染んできた感覚を得られました。道長取りから始まりモダンにシフトしていき、この表現に至ったことで、これからも新たな作品を制作していけたらと思います。
古くは何十年も前におられた1人の金彩職人によって作られたこの技法をリスペクトという形で構成に残せたら幸いです。