レザー製品への金彩加工
京友禅の金彩加工。その技術は古くから着物に華やかさを施してきた技術です。
その技術は魅力的でありながらも着物以外にはなかなか使われることなく今日まで至っています。
ここ数年この技術をレザー製品に転用するため研究を進めてきましたがようやく少し形が見えてきました。
レザー製品への金彩加工には複数の課題がありました。
1つは堅牢度
着物に施す技術として発展してきた金彩という技術はその実堅牢度に関して言えば非常に弱いという欠点があります。着物には専門のメンテナンス職人がおり、使用用途も金彩を施すような着物はフォーマルな場に来ていくようなものが多く丁寧な扱いをされています。定着剤も正絹や生地への加工を施すにあたり、生地の風合いを損なわないために柔軟性のある樹脂糊を使用するのが現在の主流ではありますがこれもレザーに加工を施すにあたって定着力、堅牢度共に安定感を維持できない要因になっていました。そして箔という素材はその薄さゆえに擦れなどに弱くすぐに剥げてしまう危険性があったのです。
2つ目は箔素材とレザー素材の相性
箔加工を扱うにあたり私たちは箔ばさみと呼ばれる竹で出来た箔を挟んで扱う道具を使用します。これは箔が静電気に反応し指や金属などにくっついてしまう性質があるため静電気を含まない竹材を使用して扱うからですが、レザー素材というのは非常に静電気を帯びやすいものであり箔加工を施す際に不必要な部分に箔が定着してしまいそれを除去する過程でレザーに傷をつけてしまったりするため、模様を金彩で施すのが非常に難しいのです。機械で施す箔押し加工などと同じ手法を取ればある程度簡単に施すことは可能ですが、それでは京友禅の本格的な金彩加工技術とは言えず、職人が一つ一つ手仕事で加工を施す必要がなくなってしまいます。そのため表現を可能にする技術研究が非常に困難を極めました。
これらの問題点からレザーに金彩加工を施すにあたって解決しなければいけない要素が浮かび上がりました。
・レザー素材を使用した製品から考えられる使用シーンに耐えられる堅牢度の確立
・レザー素材の静電気問題を解決しながら金彩で模様を施す加工方法の確立
・上記2つの条件を満たす京友禅の金彩加工方法の選択
これらは実験の末に堅牢度を維持しつつレザー製品に金彩加工を施したものの一例
全て職人が手作業で一つ一つ加工しており伝統的な技術を取り入れつつも擦れに強い加工を施しています。普段着物への加工では使わないような定着材を使用しながらそれでいて技術を再現するのは非常に難しいことではありますが、ある程度形になってきたかと思います。
本格的なレザーへの金彩加工を施す前に合皮などへの実験も行いました。合皮の方が性質上本革よりも定着材の浸透度が低く定着させるには難易度も跳ね上がりますが、加工部分を剥がそうと試みた結果合皮の表面と共に剥離するレベルでは定着することが確認できました。
しかし、素材というのはそれぞれ微妙な差で本当に思ったように加工できないことが多いためこれからも研究を続けていこうと考えております。
レザー製品へ金彩加工を試してみたいとお考えの方がいれば是非一度ご相談していただければ幸いです。